2020年度 修士論文審査会

2月6、8日に、理工学研究科 基礎理工学専攻 生物化学専修の修士論文審査会が開催されました。当研究室の阮君は、「Downstream Signaling of Macrophage Migration Inhibitory Factors in Mesenchyme cells Starfish Larva」というタイトルで、この2年間の成果を発表しました。先日の卒業論文審査会と同様、オンラインでの開催となってしまいましたが、PCの画面上に先生方のお顔がずらりと並ぶと対面の審査会とはひと味違う緊張感があります。阮君も、相当緊張していました。発表は英語で、質疑応答は日本語での発表でしたが、質疑応答もなんとかクリアして無事に終えることができました。

 これまでDECI Biol. Labでは、ヒトデの幼生の免疫システムについて精力的に研究を進めてきました(主要なテーマ)。そして最近、免疫応答時の間充織細胞の行動が、たった2種類のサイトカイン(細胞が分泌する細胞同士のコミュニケーションツール)で制御されていることを明らかにしました(右図、こちらもどうぞ→)。この2つのサイトカインはマクロファージ遊走阻止因子(MIF)という植物にも存在する非常に原始的なサイトカインで、私たちヒトにおいては様々な重篤な疾患に関与していると考えられている重要度の高いサイトカインです。最近の私たちの研究により、ヒトデの幼生の免疫システムでは、2つMIFがそれぞれ免疫行動のアクセル役とブレーキ役を担っているということがわかったのです(右図)。つまり、ヒトデにおいてその作用機序を明らかにすることは、免疫細胞の行動制御システムの基本原理やその進化を明らかにするだけでなく、ヒトの疾患研究にも繋がる可能性のある、非常に重要な研究テーマというわけですね。

発表中の阮君。
緊張してました(笑)
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 阮君のテーマは、この2つのサイトカインが、ヒトデ幼生の唯一の免疫細胞である間充織細胞の行動をどのように制御しているのかを「推測する」ことが目的でした。いわば、「本丸を攻めるための戦略を立案する」というテーマです。具体的には、上の図で示した生体内での免疫応答を模して、間充織細胞をアクセル役のMIF2で処理した後しばらくしてからブレーキ役のMIF1で処理するという実験を行いました。この時、間充織細胞を時系列でサンプリングし、RNA-seqという手法で各サンプルにおける全ての遺伝子の発現量を調べました。阮君は、バイオインフォマティクスという統計手法を駆使して、MIFの刺激によって時系列で発現量が変化する遺伝子を探索し、それらの遺伝子の共発現関係に基づいて遺伝子ネットワークを構築しました。そして、MIF刺激によって発現量が変化する遺伝子は、共発現関係に基づいて6個の集団に分類できることを明らかにするとともに、それぞれの遺伝子集団がどのような機能を持っているのかを調べることで、間充織細胞の免疫応答において、いつ、どのような細胞内シグナルが関与するのかを推測しました。最終的に、ヒトデの幼生において、2つのMIFによって免疫システムがどのように調節されているのかについてのモデル(本丸攻略のための戦略)を提唱することができました。今後は阮君の仮説が正しいかどうかを、実際にヒトデを使って確かめていくことになります。

 修論が終わって一段落、、といきたいところではありますが、次は修士課程の中間発表が控えています。この時期はバタバタ、、ラボあるあるですね。阮君のお疲れ様会はまだできていないので、次の発表練習あたりにケーキかな。。?