論文裏話
先日、D3 南方君の処女論文が、Journal of Immunology誌のオンライン版で公開されました。哺乳類の血小板の起源について、従来の学説の見直しを迫る成果だと考えています。概要についてはプレスリリースをご覧いただくとして、せっかくなので裏話を。

もともとDECI Labでは、ヒトデの「幼生」の免疫研究を行っていました。一方、ヒトデの成体、つまり星型の大人の免疫システムは、ほとんど研究していませんでした。それをあえてやりたいと言ってきたのが南方君です。これまでほとんど手を付けていなかったため、「実験系の構築から始めなければならないから大変だよ?」と言いましたが、それでもやりたいと言うので、成体の免疫系の解析が南方君のテーマになりました。
案の定、苦労の連続で、一つハードルを超えると、さらに2−3個のハードルが出現してくるような歩みだったように思います。成体の免疫細胞の機能を調べたいと始めたはずなのに、そのためには免疫細胞を取り巻く液性成分の分析が必須であることが示唆され、一方で、細胞が含まれないはずの液性成分の分析結果のデータからは細胞の存在が強く示唆されて困惑する、といったように、ひたすらデータに振り回される日々でした。
結果として、体液中に細胞外小胞が大量に含まれていることに気づき、その細胞外小胞を直接観察するために撮影した電子顕微鏡写真の中に、免疫細胞よりはるかに小さく細胞外小胞よりはるかに大きい、まるで血小板のように見える細胞断片を発見し、その血小板様の細胞断片が細胞外小胞の主要な供給源として機能しているという、今回の論文のストーリーが出来上がっていったのでした。
非常に遅い歩みで、論文として世に出るまで、当初の想定の倍の時間がかかりましたが、結果オーライですね。とても良い仕事になったと思います。末永く引用される論文になるのではないかと密かに期待しています(笑)少なくとも、この論文がきっかけとなり、他の動物でも同様の発見が報告されるようになれば、血小板の進化についての理解は飛躍的に深まるはずです。
現在南方君は、この血小板様の細胞断片の機能を深堀りした次の論文の執筆にも着手しており、こちらも非常に面白い、熱いデータになっています。早く報告できるように頑張りましょう。

本人用とラボ保管用に2個作成しました。